シモバシラの霜柱

大曽根陽子 

朝のニュースが「この秋一番の冷え込み」を報じたある晩秋の朝、「霜柱ができているよ」という技官の根本さんの声に研究室を飛び出しました。大学院生として日光植物園で研究をはじめてから4年、今年こそ見られるかと毎年心待ちにし、いつも空振りに終っていた待望の霜柱です。霜柱といっても、子供の頃、ザクザク踏んで歩いては喜んだあの霜柱ではありません。それは、シソ科の多年草、シモバシラが一年にたった数日、しかも朝の一時だけひっそりと咲かせる氷の花なのです。

急いで駆けつけてみると、枯れたこの草の根元に白い雪の玉のようなものがくっついています。よく見ると、それはまさに茎から横向きに張り出した霜柱でした。長く伸びた霜柱が茎を抱きこむようにカーブして、不思議な形を作り出しています。一本一本の氷の結晶は見覚えのある例の霜柱よりもずっと細く、手のひらに乗せればふわりと軽い感触です。

11月のある朝、シモバシラの茎の根元にできた霜柱

なんとも不思議な造形物で、たくさんの人が興味をもって眺めただろうとは思うのですが、意外にもこれがどのようにしてできるのかはよくわかっていません。それでも、研究室のメンバーがあれこれと考えた結果、一つのストーリーが浮かび上がってきました。折角なので、ここで披露したいと思います。夜間、気温が氷点下になると、茎の表皮のあたりが凍り始めます。氷と水の間には蒸気圧の差というものがあり、これによって茎の組織の水は凍っている部分に引き寄せられ、そこで冷やされて氷になります。このように次々と表皮のほうに引き寄せられた水が凍り、前にできた氷を外側に押しだしていって、霜柱となるというわけです。中の水が凍ると茎の組織が壊れてしまうため、一本の茎がこれを作るのはせいぜい数回です。なかなか目にするチャンスがないのも、これでうなずけます。霜柱の形は条件によって変化するらしく、その朝、私が見たのは茎の根元から12cm程度の高さのむしろ横に広がった形のものでしたが、時には高さ20cmにもなる細長いものもできるそうです。また、この霜柱、当の名前をもつシモバシラ以外にも、シソ科の他の植物やキク科の植物で見られるといわれています。

シモバシラの霜柱は、小春日和の日差しに暖められて、開園から一時間が過ぎる頃には融けてなくなってしまいました。何人のお客さんにその晴れ姿を見てもらうことができたのでしょうか。そう思って園内を見渡せば、紅葉の頃の賑わいが嘘のように、人影はまばらです。日光の厳しい冬がもうすぐそこまで来ているようです。

(おおそねようこ:日光分園大学院生)