連載:世界の植物園 2

エジンバラ植物園

- スコットランド国立植物園の旗艦 -

Gregory Kenicer 

 スコットランド国立植物園は4つの特徴的な植物園から構成される。いずれもこの小国の南方に位置するが(地図参照)、環境条件は驚くほど多様である。王立エジンバラ植物園のもつ様々な温室と合わせれば、全世界の顕花植物のうち約7% を研究、教育、観賞のために栽培できるほど、多くの生育環境が得られる。

 Benmore植物園は多湿な国土の中で最も湿った地域にあり、温帯多雨林園と呼ばれることも多い。スコットランドのこの辺り(実際には残りの地域のほとんど)は酸性土壌なので、針葉樹及びツツジ科植物の植栽には理想的である。そのため、シャクナゲ類 (特にヒマラヤ地域のもの)や、世界各地の温帯域に分布する針葉樹の多くが栽培されている。中には、すばらしいスギや多くのチリ産のナンヨウスギ、それに印象的な小径を作る北アメリカ西海岸産針葉樹:Sequoiadendron giganteum などがある。Logan 植物園はGalloway 半島が北大西洋海流の暖かい水に洗われるスコットランドの最南西にある。雪はここでは極めて希であるため、屋外でも暖温帯の植物を栽培することができる。この植物園では特に、南オーストラリア、アルゼンチンおよびニュージーランドの植物を植栽している。分園の3番手はDawyck 植物園である。寒風吹きすさぶエジンバラ南の丘陵に位置し、その寒冷な気候は多くのスコットランド自生の植物に適するだけでなく、高山及び冷温帯植物の栽培に適している。コケ、シダ、地衣、菌類のために作られた、画期的な隠花植物園もある。

ある晴れた日の芝生と主温室:スコットランドでは希有な天候!無料で入園できるため市民や旅行者の憩いの場所になっている。

 王立エジンバラ植物園(RBGE)は以上の4 植物園の本部であり、最も多くの植物種が見られるところである。研究活動のほとんどもここで行われる。RBGEは4つのうちで最も古く、設立の歴史は1670 年に遡る。創設者はエジンバラの医師であったアンドリュー・バルフォーとロバート・シッバルドの2人で、 もともとは薬用植物の栽培や、エジンバラの医師とエジンバラ大学生の教育のために作られた。このような庭園的薬用植物園、あるいは薬草園は17 世紀に端を発し、初期の修道院の庭園が自然に発展したものである。ヨーロッパにおけるこのような植物園の発展と、日本における小石川やその他の薬用植物園の設立がほぼ同時期であることはとても興味深い。RBGEの紋章(上)には設立者の一人であるシッバルドを記念して、Sibbaldia procumbens(タテヤマキンバイ)が用いられている。この植物は、周極地域に分布するバラ科の小型草本で、リンネによりシッバルドに献名されたものである。

RBGEの植栽植物


ヨーロッパブナの生垣とそれに面した草本区画。英国の家庭で普通に見られる造園様式。
乾性温室における新大陸のコレクション。それぞれの大陸ごとのエリアがあり、チリとソコトラ諸島のコレクションはとりわけ豊富。

 スコットランド国立植物園全体で栽培されている植物の種数は16,000種に及び、その大半が公開されている。4つの植物園のうち、エジンバラ植物園で栽培される植物が最も多様であり、全植物園コレクションの基盤になっている。RBGEは現在30ha強の面積を持ち、その中には様々な生育環境を模した庭園がある。中国丘陵園(中国の4,000m級の1つの山を40mに縮小したもの)から大きな2 つのスコットランド自然生態園に至るまで、育成部スタッフはしばしば自然界から着想を得て、植栽を行っている。人々に愛される大きなロックガーデンは、過去150 年の間RBGEの中心的な存在であり、ヒマラヤ、ロッキー山脈のがれ場、南米高地の砂漠からュージーランドの海岸に生育する非常に多くの種類が植えられている。一方で、より伝統的な形式を残した庭園領域もある。広大な草本の区画、2 つの樹木園、回りをテラスで囲まれたウィンターガーデン(早朝の霜で覆われる様はとりわけ美しい)、 および英国で最もすばらしいヨーロッパブナ(Fagus sylvatica) の生け垣である。

温室

 RBGE の10個の主要温室のほとんどは、多くの屋外コレクションと同様に、生育環境ごとに設計されている。そのため、来園者は世界各地から得られた全く類縁関係の無い植物が、同様の環境に同様の方法で適応しているということを知ることができる。

 乾性温室では、世界の砂漠植物の信じ難いほどの多様性を見ることができる。また、これらの植物が薬、環境改善、食糧として人類にどのように寄与できるかについて、多くの情報を学ぶことができる。

 「乾性温帯温室」は最大の温室であり、地中海、オーストラリア、南アフリカ、米国西部だけでなく、ブラジルおよびアルゼンチンの温帯林からの植物が植えられている。この温室は、これらさまざまな場所から来た多様な植物がどのようにして同様の方法で季節のある状態に適応しているかと言うことを完璧に示している。

 熱帯水生温室と南米水生温室では、世界で最も有名で人気の高い生育環境である熱帯多雨林を体験できるため、来園者にもスタッフにも人気が高い。この温室には、チョコレート、砂糖、コーヒー、生姜、ゴムといった、私たちの生活にも馴染みの深い熱帯産物の原料植物も数多く植えられ、人目を引いている。ピート温室には、東南アジア、東アフリカ、アンデスなど山地の多湿地域原産の植物が集められている。その隣にはロック温室があり、これらの山地の中でも標高の高い場所や、やや湿気の少ない岩地に生息する植物が植えられている。

 このように生態的特性を反映する温室がある一方で、進化的な側面から植物を集めた少し趣の異なる温室もある。ラン・ソテツ温室では、維管束植物のうち最も進化したグループと最も原始的なグループの鮮やかな対比を見ることができる。シダ温室では、非常に原始的な植物であるシダの間を縫って、恐竜の足跡がついた通路が配されており、子供たちには特に人気が高い。その隣には、やはり原始的な植物であるメタセコイヤやイチョウが見られる"化石の庭"がある。RBGEにはまた、2つのヤシ類大温室(イギリス国内で最古で最大級の温室の一つ)、小型の高山植物温室、高山植物園もある。

ヴィクトリア調の温帯ヤシ温室: RBGEのシンボルの一つであり、当時の技術を象徴する偉業。
高山植物温室と芝生。高山植物はスコットランドの寒冷な気候によく耐えて育つ。RBGEの姉妹園であるDawyck植物園には、とりわけ素晴らしいコレクションがある。
"化石の庭"では「生きた化石」と呼ばれるSequoiadendronやイチョウをはじめ木生シダやヤシ類を、それらの遠い祖先である本当の化石(スコットランド産)と共に展示している。

 一般に公開されている園内や温室の植物のほかに、裏方ではさらに多くの植物が育てられ、RBGEで行われる様々な研究の多くに欠かせない材料になっている。200万を超える植物標本は特に貴重な資料で、外部の研究者にも容易に利用できるようになっている。標本は、主にRBGEの研究(後述)の対象となった世界各地から集められたものだが、ヨーロッパとイギリス連邦各国のものも多く、空調を完備した特別な建物で保管されている。図書館には16世紀から現在にいたるまでの様々な書籍や雑誌が所蔵され、イギリス国内でも最大の植物図書のコレクションを誇っている。

研究活動

RBGEを訪れた人々は、ここが美しい庭園であるばかりでなく、世界的に有名な研究機関であることを知り一様に驚く。研究活動やコレクション管理に従事する職員は50名を越え、国籍の異なる博士課程の学生が大勢いる。スタッフは、広範な分類群を対象として植物学の様々なテーマに取り組み、地域レベル、国際レベルで研究を展開している。

分類学と系統学

 RBGEでは、藻類(特に珪藻)、ツツジ科、イワタバコ科、マメ科、シュウカイドウ科、ショウガ科、 セリ科、東南アジアの森林木、熱帯や温帯の針葉樹、シダ類、蘚苔類を中心とした分類学的研究が行われている。これらすべての生植物と乾燥標本はもちろんRBGEで見ることができる。また、菌類の分類研究所もここを拠点として運営されている。そこでは特に英国内の種を対象に、耐寒性園芸品種の分類と普及を目的とした研究が多く行われている。

 地域植物誌と生物地理学はRBGEが長く取り組んできた特に重要な研究テーマである。この分野の研究は、アラビア半島やソコトラ諸島、トルコを含む西アジア地域、ヨーロッパと南アフリカといった地域で行われてきた。最近では、ネパール、ブータンなどのヒマラヤ諸国、メキシコ、ベリーズ、ブラジルの熱帯雨林や乾燥林(セラード)などの中南米地域における研究に力を入れている。

 保全もRBGEの重要な研究テーマである。発展途上国では急激な人口増加と経済成長による森林資源の過剰利用が懸念されている。RBGEの国際プロジェクトの中でもおそらく最大のものである針葉樹保全プロジェクトでは、ベトナム、ニューカレドニア、チリなどを対象に針葉樹の保全活動を行っている。もう少し近場では、最新技術を使った研究が行われている。たとえば、ヨーロッパに生息するヤナギ属、ニレ属、コゴメグサ属、カキラン属の植物の遺伝的多様性は分子集団遺伝学的解析を用いて調べられている。その他にも、スコットランドに残された希少なシダと被子植物の野生集団およびそのハビタットを保全するプロジェクト、一般の人々にも身近なところでは、急速に失われつ

つある植物に関する伝承知識を保存するプロジェクトなどがある。

テディベア・ピクニックに参加する幼稚園児(とテディベア)。この楽しい教育プログラムは幼児達を自然界に親しませ、保全の重要性についてもちょっぴり学ばせることを目的としている。

教育活動

 RBGEの持つ充実した研究プログラムと膨大な数の乾燥標本及び栽培植物は、イギリス国内だけでなく世界各国の若手植物学者や若手園芸学者を教育する上で、計り知れない価値を持っている。更に、外部の学生や研究者による標本の閲覧やディスカッションもいつでも受け付けている。学校教育向けの展示室やプログラムにも力を入れていて、3歳から18歳の多数の児童、生徒がRBGEの教育プログラムに参加している。たとえば、3-5歳の子供を対象に環境保護を教える「テディベア・ピクニック」、17-18歳の高校生を対象にした「乾性植物の環境適応」といったプログラムがある。美術、伝統工芸、ボタニカルアート、植物の同定など、一般の人々に植物の魅力的な世界に親しんでもらうためのコースもあり、人気を博している。

(グレゴリー・ケニサー エジンバラ大・大学院生     大意邦訳:編集部)