アモルフォファルス・ギガス開花騒動記

山口 正 

2003年9月7日 温室の鉢の潅水をしているアルバイトの人から連絡があった。「大きなコンニャクが咲きそうだ。」温室掛は、つい先日から遅い夏休みに入った。特別に申し送り事項も受けてはいない。大きなコンニャクは幾つもあるし、たいしたことではあるまい。そう思ったがとりあえず見に出かけた。研究・培養温室の中をいつものように進んでいくと、そこには見たことのない形状と大きさを持ったコンニャクの花茎がニョッキリ立っていた。先端にまだ開いていない花序がついており、明らかに花序だとわかる(写真参照)。しかし、私自身も何週間か前に鉢に潅水した時には、葉芽だと思っていた(温室掛の名誉の為にも言っておくが、この植物はある程度芽が伸びてこなければ、葉芽か蕾か判断がつかない)。1991年に咲いたAmorphophallus titanum (Becc.) Becc. ex Arcang. ショクダイオオコンニャク(スマトラオオコンニャク)の時にも開花に立ち会っているが、その時の蕾の形状とも違う。


9月7日 (2.7m);    9月10日〔→拡大画像

9月11日;   9月12日(3.08m)〔→拡大画像

9月15日(3.24m)〔→拡大画像

9月14日研究培養温室前に列を作る見学者

9月18日(3.24m)〔→拡大画像

「温室掛は休み。サトイモ科の研究者である邑田園長は海外出張。どうする?」一瞬判断に困りパニックに陥った。ショクダイオオコンニャクと同じような性質ならば、花は数日で開花に至る。「とにかく正確に同定しなくては!」ということで、このコンニャクの木箱に挿してある植物ラベルの情報(「Amorphophallus brooksii 1993年 種子 アメリカ J. Symon氏より」)を研究部に持ち込んで、同定してもらえるよう頼んだ。次に、事務所に飛び込んで、どうも「とても貴重な植物が開花しそうである」ことを事務連絡した。

「とにかく植物の生態を記録しなくては!」メジャーとカメラを持って温室へとって帰り、脚立に乗り地面からの高さを測った。2.77mもある。これは尋常な大きさではない。
そうこうしているうちに研究部から連絡が入りAmorphophallus gigas Teijsm. & Binnend.(以下「A.ギガス」と省略する。A.brooksiiはその異名とされる)というインドネシア・スマトラ島に稀に産する珍しい植物であることが判明した。

1991年に当園で咲いたA.titanumとは近縁種で花軸(花梗)を含めると最大4.36mの花(花序)高さにもなるという。「ギガス」は、ラテン語で“巨大な”の意味を持つ「世界一ノッポな花」であることが判った。世界の植物園でも開花の事例が少なく、アメリカのマイアミにあるフェアチァイルド植物園の開花記録(1999・2002年)に次ぐものであることがわかった。日本では当然初めての開花。栽培のデータや情報が不足していた。

集まったすべての情報を持ち寄り研究部・育成部・事務部で協議した。「とても希少な種なのでなんとか一般に公開したい」という事になった。しかし、ここで問題が発生した。植物を管理している場所が公開温室ではなく、研究・培養温室の中であるため、他にも貴重な植物が管理されている。公開を目的とした温室ではないため、一般の入園者の出入りに適さない。「A.ギガス」を植えてある特製の木箱の重量が重く、尚且つ花茎が2.7mもあり出入り口からの搬入・搬出も不可能である。

9月12日(金)研究・培養温室内で公開することが決まったが、花が後ろ向きで咲いている事がわかった。「向きを変える必要がある!」小さな鉢なら片手でも廻せるが、木箱と土の総重量は300kg以上ある。2.7mある花茎はユラユラ揺れ今にも折れそうで、簡単に動かせそうにない。また、移動用に付けた木箱の取っ手が鉢棚にぶつかって身動きが取れない。困り果てた末に育成部職員三人がかりで温室内に三又を据え、チェーンブロックで木箱を持ち上げ少しずつ回転させ、正面を向かせることに成功した。

通常は非公開の温室内は、通路が狭く植物観賞には向かない。そこで苦肉の策として現場で安全に見てもらえるよう一部の鉢を移動し、ロープを張り、来園者を誘導した(元々公開を目的とした温室ではないので、この程度の規制は勘弁して頂きたい)。

2003年9月14日(日)〜9月21日(日)にかけて「A.ギガス」は、テレビ・新聞等で報道され、多い日には、一日で3488人もの入園者が列をつくり、この珍しい花を楽しんだ。

公開期間中には、9649名もの来園者があり、公開時間を延長して対応した。公開中は職員が、交代で植物の案内に立ち、多くの質問にも答えた。入園者への説明案内が欲しいとの声にも応え、植物園後援会の援助で「A.ギガス」の写真と案内を作り頒布する事ができた。入場者にはことのほか好評で、1時間で初版300部が売り切れ、慌てて増刷し、公開期間中に1600部頒布されたと聞いている。忙しい中、案内を作る為に力を貸していただいた後援会の関係者の皆さんに、この場を借りて感謝を申し上げる。

9月7日から計測を続けてきた「A.ギガス」も、9月15日に最大の高さ(3.24m)を記録しそのあとは徐々に萎れ、9月21日には、中央に立っていた付属体も折れ(2.85m)無残な姿となり公開を終了した。その後、9月26日(金)標本として残す方針が決まり、地上部は切り取られ標本となった。

「もう一つの大蒟蒻」 Amorphophallus titanum (Becc.) Becc. ex Arcang.
ショクダイオオコンニャク (スマトラオオコンニャク)

「A.ギガス」と同じ温室で管理しているA. titanum(ショクダイオオコンニャク)の球茎(コンニャク芋)は、騒ぎの収まった10月6日に木箱から掘り上げられ殺菌処理された後、10月9日に再び植付けられた。この時に計測した重量、直径、高さはそれぞれ、28kg、48cm、20cm。もう一つあるショクダイオオコンニャクの球茎も、10月30日に植え替えられ、こちらの方は26.5kg、40cm、20cmであった。1991年11月18日に、当園でショクダイオオコンニャクが開花した時、植付け時の球茎は、重量28kg、直径40cmだったので、今回計測した値はこれとほぼ同じであり、開花を期待させる。しかし、大きくなったからすぐ咲くかというとそうは行かない。「A.ギガス」は、種子を蒔いてから咲くまで11年もの年月がかかっているのだ。「咲くか」「咲かぬか」すべてはコンニャクしだいなのである。「2株が同時に咲いたりして」などと妄想を膨らませつつ、早く咲くことを祈りもう少し待つこととしよう。

(やまぐちただし 小石川本園技官)


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